三日目。
運命の最終日。この日に行うのはレスキュースキルと、オープンウォータープレゼンテーション。
IE会場はPalm Beach Resort。できたばかりのホテルっぽい。
まずはレスキュースキルだが、台風の余波もあり、かなり風が強い。波高は一メートル程度だろうか。表層の流れもかなりあり、やりづらい。しかし実際の海ではこんな状態でレスキューすることもあるだろうから、文句も言えない。自分はいつものように最後なので最初はアシスタント。このアシスタントをするだけでかなり疲労する。
当初はウエイトを減らしたベルトを装備してからやる…はずだったのだが、結局ウエイトも通常のまま行った。これを二つ抱えると、自分のBCDは浮力があまりないためかなり沈む。レギュレータからエアを吸うと後ほどのプレゼンテーションに影響があるかもしれないので、スノーケルから吸うのだが、スノーケルの上まで波を被り、水を飲む羽目になる。
そんなこんなでなぜか最後ではなく、三番目にデモンストレーションをやることになり、自分は韓国人女性相手のマウスツーマウス呼吸をした。なんとかクリアしたが、彼女のダンナも一緒のチームなので、変な緊張感(笑)。試験なので気にしても仕方ないので堂々とやるw。
次に理由がよくわからなかったのだが、相手の女性が失敗してしまう。自分がレスキューされる側なのだが、おそらく沈めたか何かでメイクアップ(再度トライ)になってしまった。その後のメイクアップでは、ちゃんと合格したのだが、このときは戻ってから彼女はかなりナーバスになっていたようだ。ダンナも励ましていたようだが、もともとそういうパーフェクト主義な性格らしく失敗するとかなり悩むご様子。
レスキュースキルのあと、1時間ほど待たされ、ブルーチームは最終組でオープンウォータープレゼンテーション。すでにブリーフィングは事前に終えていたので、沖合までがんばって水面移動し、そこで行う。やっぱり水の中の方が安定していて楽しい。
ブルーチーム最初のプレゼンテーションはダンナ。これは無難にこなしていた。自分はアシスタント役をやったのだが、特にナニもすることなく、ぼけっとしていただけ。二人目は先ほどの女性。自分は生徒役なのだが、水中で疲労しているダイバーを助け、ロープにつかまらせるスキルなのだが、彼女のブリーフィングはもちろん韓国語でやられていたので、何をすればいいのかちっともわからない。なのでバックアップ空気源出して見たりしてナチュラルトラブル出しまくり…。最もかなり丁寧に直されたので、問題はないかと。最初の生徒を韓国人にやらせればここら辺はオレがマネできて良かったのにな、と今は思う。
三人目は親日家のケフン。沖縄に1カ月滞在したり、博多のmic21にまで器材を買い出しに来るくらい日本大好きなヤツ。かなりフレンドリーなのでおもしろいヤツだなぁと思っていた。彼のひとつ目のスキルは緊急スイミングアセント。一人の生徒ダイバー(ダンナ)のエラーは急浮上。これは、しっかりとBCDをホールドしていて、ちゃんと対処していた。次の生徒ダイバー役は自分。指示されたエラーは息をし続けること。本来は一息でゆっくり細く声を出しながら浮上するわけだが、そこを普通に呼吸するエラーを起こせという指示をエグザミナーからもらった。気づかれないと困るし、チームメイトなので、かなり協力的に激しく呼吸をしたのだが気づいてくれない。途中で止まりつつ呼吸する。泡も出まくるし、止まるし明らかに激しい呼吸をしている。あー気づいてくれよ、頼むよ、と思いつつそのまま結局浮上してしまった。
教えるわけにいかない。彼がそのままOKを自分に出し、再度潜る。なんかオレが落ち込みそうだ。凹むなあ。
さて、最終組のファイナリストは自分。マスクの脱着と、ロープの結び方のひとつであるシートベンド。最初のスキルのマスク脱着は、エラーとしてマスクを逆さま。次はマスクをフードの上に乗せる。これは簡単だった。
次はシートベンド。最初のエラーはしっかりと締め付けないこと。次は、結び方を忘れること。それぞれ、訂正を出し、二人目は再度やり直しさせ、無事エラーを見つけられずに終わるということはなかった。
ディブリーフィングを全員終え、後はファイナルのジャッジを待つだけ。
なお、最初の筆記試験の一般規準と、このオープンウォータープレゼンテーションはやり直しができない一発勝負。これらを落とすと、IEを受け直すことになり時間もコストもかなりかかることになる。しかも五日後以降に受験しなければならないので、面倒だ。
さて、エグザミナーからの講評とジャッジ。最初の候補生は日本人の女の子であるハルナちゃん。短い講評の後、握手する姿が見える。破顔一笑とはこのことか。満面の笑みを浮かべて戻ってくる。そして嬉し涙。
彼女を担当したコースディレクターは、さきほどレスキュースキル評価をしていたリー。今年のCDTC(コースディレクター開発コース)でコースディレクターになったばかり。彼の最初の生徒で、部下でもある彼女が受かって、かなりホッとしている様子。こちらも小さく拍手して彼女の合格を喜ぶ。彼女は通訳抜きで英語でプレゼンテーションする難しい道を選び、見事通過した。ホントにスゴイと思う。
そして、次に呼ばれたのはなぜか自分。日本人つながり?
そして、エグザミナーが持つ評価シートを見せられ、愕然とした。やばい、落ちた?
オープンウォータープレゼンテーションの、最初のマスク脱着は4.6。これは余裕で合格。次のシートベンドは、2.0。ひどい点数だ。エグザミナーは、平均で3.4だからパスしてると説明してくれる。ただ、シートベンドでロープを一本しか用意していないのと、ディブリーフィングで肯定的補強をしていなかったのが、この2.0の原因だ、と言われる。
これがシートベンド
シートベンドは異なる太さのロープを繋げたり、一本のロープの端を繋いで輪にしたりする。そういった価値をブリーフィングで説明しているのに、なぜ一本しか用意しなかったのか?と突っ込まれた。これにより、教えられてはいるが十分ではないということでこの項目が2.0になる。最悪の1点(一発不合格)ではなかったので、助かった。
その後ディブリーフィングで肯定的補強をちゃんとしていなかったので、その項目も2.0。肯定的補強とは「よくできた部分を取り上げて、具体的に褒めること」だ。他の結び方をしたり戸惑わず、しっかりとシートベンドを完成させられていましたね、と褒める。自分は「集中してできていましたね」とやや具体性に欠く補強をしていたため点数を取れなかった。
しかも、これらの項目が2.0を二つ取ってしまうと、その他の項目がかなりよく平均としてそれ以上でも2.0になる項目というのがさらに悪い結果になった。
このときは本当に顔から血の気がひいた。
実は事前に別のコースディレクターが二本必要だよ、と、同じブルーチームの韓国人経由で教えてくれたのだが、あまり気にせずコースディレクターと相談して大丈夫だろう、と判断した。
最終判断はインストラクターである自分の責任で行う、ということで実際の講習となんら変わりないから、誰の責任でもなく自分の責任。もしエグザミナーに「ロープの本数は指示されていない」と抗議をしても講習生のためベストを尽くしたか?と聞かれたら、確かに講習教材が足りないと自分でも思う。自分でも思うだけに、油断していた自分の判断の甘さに、情けなくなり憤る。もし自分の部下だったりしたら、同じように判断するだろうし。いや、オマエの判断ミスだろ、と。
かろうじて平均で3.4を取り合格はしたが、納得感はない。
そして、同じブルーチームの夫婦は合格し、ケフンはやはり不合格。彼の顔は憮然としているが、やはりエラーを見つけ損ねたため、スキルを達成させていない、ということで多分1.0点だったのだろう。
彼を担当したコースディレクターは、若いんだからまだまだこれからだ、と話していて彼を諭すように慰めていた。エグザミナーもすべて終了したあとに彼に再度説明して、気を使っていたようだった。
全員の評価を終え、全体のディブリーフィングをエグザミナーから受ける。そして、合格証書を合格者に。不合格者には参加証書(落とした項目の解説が書いてある)を手渡した。今回受けた12人のうち、合格者は8人。かなり厳しい結果になった。
自分としてはギリギリで受かろうが、満点で受かろうが、基準を満たしたのには代わりなく合格は合格だと、この頃には気を取り直し、素直に合格を喜べた。
最後にコースディレクターや通訳と写真を撮り、そしてエグザミナーとも記念撮影。普段、日本だと少し気恥ずかしいが、今回は晴れがましい気分で、堂々と写る。なんせ仕事以外でこういったことをして合格するなんてほぼ何十年ぶりかの経験だし、長かった道のりを考えると胸を張るべきだ。
左からエグザミナーのジョージ、CDの渡部さん、そしてオレ、通訳のアレックス。受かったのは素直に嬉しい。例え50近いオッサンでもだw
不合格者にとっては結果は厳しいものだったが、その後の人生にマイナスになることはなくプラスになるだろう。合格した自分でさえ、点数の悪かった部分をダイビングにおいても実生活においても直さなきゃ、注意しなきゃ、と思うのだから。落ちた人に対してかける言葉を持ち合わせてないが、今度は合格してな、と心の中でエールを送る。
タンクや器材を持ち、D-DOWNへ戻る。そしてD-DOWNのスタッフたちに合格の報告とお礼を述べた。その後部屋に帰り自分のレスキューコース担当をしてくれたインストラクター、ダイブマスターを担当してくれたインストラクターにメールで報告して感謝を述べる。
振り返ってみると、レスキューコースで色々な刺激を受けたからこそダイブマスターになったし、ダイブマスターコースでこれからどうするのか聞かれて、そして考えたからこそIDCを受けてインストラクターになった。オープンウォーターコースから始まって、すべてのコースを担当してくれた人たち、コースを受け付けてくれたショップの店員さん、励ましてくれた近所の器材ショップの人たちすべての影響を受けて今ここにいる。
仕事は日常の延長であまり新しい気づきのようなものはない気がするが、仕事から離れて非日常に身を置き、新しい経験をすると自分の小ささや無力さを知り、そしてだからこそ周りのサポートに気づけるようになるのだと思う。
こうしてインストラクターになったからといって明日からダイブショップで働くわけでもなく、インストラクターでございと偉ぶれるわけでもない。だから、また日常に戻っていくけれど、ダイビングというものに対して興味を持った人にはフォローしていくだけの活動をしようと思う。そんなに広くもなく、色々な問題を抱えてもいる業界ではあるけれど、少しでもプラスになるような活動をして行こうと今は考えている。